トンネルを抜けると、この間の車窓が幻だったように、うって変わって穏やかだが賑やかな町並みが展開する。「しなの」の停車駅・多治見である。子供の頃は遠いところだと思っていたが、「しなの」は名古屋を出てわずか二一分で到着。信じられないくらいの速さだ。多治見は陶器の町としても知られるが、この先、土岐、瑞浪と美濃焼で有名な町が続く。車窓の両側に山々がだんだんと近づいてくるのがわかるが、「しなの」は実に心地よいテンポで走り抜ける。さらに二五分、名古屋からわずか四七分で中津川である。一九六八(昭和四二)年の特急「しなの」デビュー時には一時間一〇分かかっているから、何と二〇分以上も短縮されたことになる。中津川はこのあたりの中心都市であるが、私の高校時代の恩師がここの出身で、中津川民謡の「ほっちょせ節」を授業で唄ったり、子供の頃に汽車で名古屋まで一日かけて遊びにきた話とか、色々思い出した。それにしても、かつての三分の二の時間で到達できるとは驚くべきことである。中津川を出てトンネルを抜けると、いよいよ木曽川の登場である。このあたりはダムをつくっているためか、水を満々とたたえている。木曽川はダムが多く、至るところ湖のようになっている。深い山々があたりをとり囲んでいる。「木曽路はすべて山の中である」と『夜明け前』で書いた島崎藤村ゆかりの馬寵・妻龍への最寄り駅・南木曽を通過する。観光地だけに「しなの」の一部の列車はここにも停車する。